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福岡地方裁判所小倉支部 昭和50年(モ)82号 決定 1975年3月01日

申立人 伊藤龍文 外六名

相手方 九州電力株式会社

主文

申立人らの本件申立をいずれも却下する。

理由

一、訴訟上の救助は、民事訴訟法第一一八条により、「訴訟費用ヲ支払フ資力ナキ者」に対してその訴えが「勝訴ノ見込ナキニ非サルトキ」にこれを付与すべきものとされている。そこでまず申立人らが同法所定の「資力なき者」といえるか否かにつき検討するに、申立人らが昭和四八年(モ)第八七二号訴訟上救助申立事件において提出した疎明資料を前提としても、申立人らが自己又は自己の家族の最少限度必要な生活を危くせずには訴訟費用を支払えない者に該ると認定することには大いに躊躇せざるを得ず、また申立人らが、右訴訟上救助決定当時から比べその後特段の事情が生じたため右要件に該当するに至つた趣旨にみえる主張についてはこれを疎明し得る資料は何ら存在しないから、現段階においても、申立人らにおいて訴訟費用を支払うだけの能力がないとは到底判断できない。従つて、未だ申立人らに対し、訴訟上の救助を付与する必要性はないというべきである。

二、ところで一歩進んで、仮に申立人らが同法所定の無資力者であるとしても、本件訴訟の特殊性を鑑みるとき、申立人らにとつて「勝訴の見込なきに非ざるとき」と速断し得るかどうかについても疑問である。けだし、「勝訴の見込なきに非ざるとき」とは、勝訴の見込のある場合よりも緩やかに解するのが相当であるところ、本件の場合は、将来における損害発生の可能性の有無が争点であつて、交通事故、労働災害等の既に発生した損害の救済を目的とする一般の不法行為事件と異なり、種々特殊な問題点を包含していることもさることながら、損害発生の可能性の有無一点を摘出しても、今後相当程度の立証を尽さなければ、現段階における本件記録からは申立人ら主張のような大気汚染等による受忍限度を超えた被害が果して生ずるか否かの予想すらなし難く、現状では申立人らが勝訴の見込なきに非ざる場合に該当するか否かの判断は困難であるといわなければならない。

三、そうすると本件申立はいずれも失当であるから、主文のとおり決定する。

(裁判官 森永龍彦 寒竹剛 羽田弘)

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